宇都宮商工会議所の歴史
会報でみる130年

宇都宮商業会議所月報

宇都宮商業会議所月報 第73号の表紙

 宇都宮商工会議所の会報誌のルーツをたどると戦前の『宇都宮商業会議所月報』から始まります。
 今回は明治期の会報の中から当時の世相がわかる記事を紹介します。

明治時代から発行されていた会報

 会員の皆さまに当所の活動内容や役立つ情報などをお伝えする「会報」は、その時によって判型やタイトルが変わってきました。現在のタイトル「天地人」は1995年から続いていますが、それ以前には「商工うつのみや」「会議所ニュース」などの名称で発行してきました。
 会報の歴史をたどって行くと、明治時代までさかのぼることができます。宇都宮商工会議所には『宇都宮商業会議所月報』(以下「月報」)が保存されていますが、1909年(明治42年)42年4月号から1913(大正2)年12月号分が現存しています。
 「月報」は発行から100年近く過ぎていることもあり、保存状態が悪く一部が切り取られているものもあります。しかし、第100号を迎えた「月報」(1911年8月20日発行)の誌面の中で「月報」の創刊は、1904(明治37)年5月、日露戦争が起こった年だったとの記載がありました。
 当時は第4代上野松次郎会頭のもと、「宇都宮商業会議所」という名称で活動していた黎明期であり、組織の基盤が万全ではなかった時代です。
情報伝達が発達していないなかでも会報を毎月発行しており、会員企業にとって貴重な情報源の役割を果たしていたと思われます。

初代・第4代会頭 上野 松次郎
<第1期> 明治27年2月-明治28年9月
<第3期~第11期>1897年9月-1914年6月

月報にはどのような記事が掲載されていたか

 「月報」は基本的に毎回12ページでした。「月報」の主な内容は、商業会議所からの連絡事項や役員などの報告、その時々の時事・経済の解説や宇都宮市の物価など、多岐にわたります。
 例えば「公告、稟告(りんこく)」のような形で商業会議所から会員に告知するべき内容が掲載されていました。公告は役員議員が決定した時などの報告で、稟告は商業会議所の役割や会員企業に望むことなどが書かれていました。
 また、議員総会などの開催告知と結果報告、行政への要望記事など宇都宮商業会議所や商業会議所連合会が提出したさまざまな要望書の要約を掲載しています。
 現在でも総会の開催結果や提言要望については、会報「天地人」でもご紹介していますが、明治時代から力を入れてきた歴史背景があるのです。
 そこで、「月報」の中から、明治期の世相がわかる記事や現在にも通じる記事等をご紹介します。

税制整理に関する意見

宇都宮商業会議所月報 第78号 1909(明治42)年11月15日発行

 全国の商業会議所連合会による税制改革についての要望として、税制についてこれまで政府に2回も提言をしてきたが受け入れられなかった。現在の租税制度は複雑で統一感がない。
 これを整理し、租税体系を確立すべきである。
○我が国の租税制度は煩雑であり統一に欠ける点が多い
○戦時(この場合は日露戦争)において非常特別税法を制定し課税を増やしたことで、国民の負担が増加し、事業経営に悪影響を及ぼしている
○税制改革によって国家財政も安定し、社会経済の発展にもつながるのだから、一日も早く改正して欲しい など

 以上のように具体的な政策提言を行っていました。
 同じ号には宇都宮商業会議所が宇都宮税務監督局長・宇都宮税務署長に提出した意見書が掲載されており、独自の提言活動も行っていたことがわかります。
 現代においても日本商工会議所が「令和4年度税制改正に関する意見」において「インボイス制度の導入は当分の間凍結すべき、軽減税率制度は将来的にはゼロベースで見直すべき等」などの意見を表明し、内閣総理大臣や経済産業大臣に意見書を提出するなど、同様の取り組みが行われています。

欧州の悪風を学ぶ勿なかれ

宇都宮商業会議所月報 第74号1909(明治42)年5月30日発行

 近年、欧州の人々は日本の風致(景観)、自然、自由、便利を賞美し、自分たちの国に取り入れようとしています。それなのに肝心の日本は、せっかくの固有の美を放棄して、欧州のものを真似ようとしています。
 例えば青山御所の日本庭園は、来日した欧州人が絶賛しているのに、これを欧州風の庭園に改造する計画があるそうです。実に嘆かわしい誤りです。
 欧州の人たちが御所(皇居)を拝観して感激しているのは、御所が日本的風致に満ちているからです。日本の景観の美しさを捨てて洋風にしようとするなど、実に遺憾の極みです。

 日本らしい伝統的な景観を守る重要性は、観光振興の観点からも現在に通ずるものがあると思います。この記事はそうした意見の先駆けとも言えますし、欧米諸国に追随しがちな日本人の気質が当時から表れていたのかもしれません。

 今回は明治期の会報『宇都宮商業会議所月報』の記事についてご紹介しました。
 今回ご紹介した記事以外にも、当時の世相がわかる記事や現代にも通ずる記事は、「月報」にたくさんありました。
 この「月報」はWEB天地人のバックナンバーでも公開していますので、ご興味のある方はぜひご覧ください。